資源開発分野Division of Reproductive Engineer

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超過剰排卵誘起法の開発
2015.06.01

 近年、ヒト遺伝子は2万数千程度であることが明らかになり、全遺伝子の機能を解析するために、世界中で個々の遺伝子を破壊したノックアウトマウスを網羅的に作製し、それらマウスの基礎的表現型の解析が精力的に行われています。しかしながら、ノックアウトマウスを迅速、大量かつ効率的に作製するためには、体外受精-胚移植技術の確立が必須であり、1匹の雌から多数の卵子を排卵させる超過剰排卵誘起法の開発が望まれていました。

従来の過剰排卵誘起法

マウスにおける従来の過剰排卵誘起法は、妊馬血清性腺刺激ホルモン(PMSG:卵胞刺激ホルモン(FSH様ホルモン))を投与することで、多数の卵胞を発育させるものでありますが、1匹の雌マウスから得られる排卵数は、多くても30個が限度でした。

超過剰排卵誘起法の原理と方法

インヒビンは発育卵胞中から放出されるホルモンで、下垂体から分泌されるFSHの分泌量調節因子として、排卵数を制限するため、PMSGの単独投与では限られた排卵数しか得られませんでした。そこで、抗インヒビン血清を用いて雌の体内のインヒビンを中和することでFSHの分泌を過剰に促進、同時にPMSGを投与することで多数の卵胞を発育させることにより、1匹から100個以上(従来法の3~4倍)の卵子を排卵させることに成功しました(超過剰排卵誘起法)。
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利用効果

  1. 使用動物数の軽減:卵子採取に用いる雌の数を1/3~1/4以下に減らすことが可能である。実験動物の使用匹数の削減は、実験動物の愛護・福祉の重要な柱の一つであることから、ライフサイエンス研究という観点からのみならず、実験動物の愛護・福祉に対する社会的配慮と言う観点からも極めて意義深いものであり、国際的に高い評価を得る研究の推進に寄与することができる。
  2. 遺伝子改変マウスの作製・収集・保存・提供の効率化:少数の雌マウスから大量の卵子を排卵させることで、体外受精や胚移植が容易となり、遺伝子改変マウスの収集・保存・提供の効率化を図ることが可能となる。
  3. 他の動物種への応用:超過剰排卵誘起法が未だ確立されていないラット、ハムスター、モルモットなどへの応用の可能性が極めて高く、その利用範囲がさらに広がるものと思われる。


今後の展開

現在、特許申請中であり(特願2015-032354)、本排卵誘発剤を企業から発売予定です。

技術開発

この超過剰排卵誘起法は、ナショナルバイオリソースプロジェクト 基盤技術整備プログラムの支援により、生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究部門(CARD)・資源開発分野の中潟直己教授、竹尾 透講師らのグループが開発したものであり、その成果は2015年5月29日に PLOS ONE に発表されました。

参考文献

Takeo T., Nakagata N. 2015 Superovulation Using the Combined Administration of Inhibin Antiserum and Equine Chorionic Gonadotropin Increases the Number of Ovulated Oocytes in C57BL/6 Female Mice. PLoS One. 2015 May 29;10(5):e0128330. doi: 10.1371/journal.pone.0128330.

広報

熊本大学によるプレスリリースはこちらをご参照ください。(pdf)

記事

日刊工業新聞 
2015年06月08日 掲載

American Association for the Advancement of Science
EurekAlert!  2015年06月19日   掲載