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疾患エピゲノム制御分野Division of Disease Epigenetics

ようこそ疾患エピゲノム制御分野へ

私たちの研究室は、平成30年4月にスタートしました。私(大口 裕人)はこれまでHarvard大学医学部Dana-Farber癌研究所Anderson研究室にリサーチフェロー、インストラクターとして留学し、造血器悪性腫瘍のひとつ多発性骨髄腫の病態基盤の研究を行って参りました。Anderson先生をはじめ、これまでお世話になりましたたくさんの先生、先輩、友人、ラボの皆様に深謝致します。

 私たちの研究室では、多発性骨髄腫を中心に造血器悪性腫瘍の病態本質の解明を目指した研究、さらには新規治療法開発に向けたトランスレーショナル研究まで進めていきたいと考えています。研究室は立ち上がったばかりですが、今後挑戦的な研究を展開し、この熊本大学生命資源研究・支援センターから新しい研究成果を世界に発信していきたいと考えております。何卒よろしくお願い申し上げます。



研究目的

今世紀に入り、造血器悪性腫瘍を初めとするがんの治療成績は、分子標的療法(病態に関与する分子やシグナル経路を直接標的とする治療法)の登場により飛躍的に向上しています。この背景には、疾患の病態を基礎的な研究により明らかにしてきたことが挙げられます。しかしながら、未だに多くのがんは治癒不能であり、その病態の理解も十分ではありません。最近の研究により、がんの分子病態にはゲノム変化のみでなくエピゲノム変化(DNA塩基配列の変化を伴わない情報の変化)が深く関わっていることがわかってきています。私たちの研究室では、造血器悪性腫瘍の新規治療法開発に向け、エピゲノム制御異常を含めた包括的な病態の理解を目指した研究を行っていきます。



研究課題

1.骨髄微小環境を介する多発性骨髄腫エピゲノム制御異常の解明

多発性骨髄腫は、B細胞の最終分化段階である形質細胞の性質を有する悪性腫瘍です。多発性骨髄腫の予後は、プロテアソーム阻害薬、免疫調整薬(IMiDs)など新規治療薬の導入により改善していますが、未だに治癒は期待できず、新たな治療標的が模索されています。多発性骨髄腫の発症進展には、まず、非腫瘍性のクローナルな形質細胞の増殖段階であるMGUS、続いて、無症候性骨髄腫、さらに症候性骨髄腫へと進む多段階モデルが考えられていますが、その進展には、遺伝子学的な変化に加えて骨髄微小環境が関わり、それに伴うエピゲノム変化が重要な役割を果たすことが示唆されています。私たちは、骨髄腫細胞におけるヒストン修飾酵素の役割を検討してきましたが、骨髄腫細胞において、ヒストン脱メチル化酵素KDM3Aの発現がこの疾患の進展とともに上昇すること、また、骨髄間質細胞からの刺激で誘導されることを見出しました。そして、KDM3Aは、H3K9脱メチル化依存的に転写因子KLF2およびIRF4の発現を制御し、これら転写因子ネットワークと協調的に骨髄腫細胞生存維持に関わることを明らかにしました(Nat Commun 2016)。また、もう一つのヒストン脱メチル化酵素KDM6Bも骨髄間質細胞からの刺激により骨髄腫細胞で誘導され、骨髄腫細胞生存において重要な経路であるMAPK経路関連遺伝子を活性化し、骨髄腫細胞を維持することを明らかにしました(Leukemia 2017)。これらの結果は、骨髄腫細胞においてエピゲノム制御因子が骨髄微小環境からの刺激で誘導され、異常転写ネットワーク形成に寄与していることを示し、骨髄微小環境が骨髄腫細胞生存に有利なエピゲノム変化を誘導することを裏付けました。私たちは、今後さらに骨髄微小環境が多発性骨髄腫の病態に与える影響をエピジェネティックスの観点から解明を目指していきます。

2.ダウン症関連急性巨核球性白血病発症に関わる分子基盤の解明

ダウン症は、21番染色体トリソミーに起因する症候群であり、人類で最多の先天性遺伝子疾患です。その頻度は高齢期出産の増加に伴い、増加傾向にありますが、未だ根本的な治療法は確立されていません。ダウン症では精神遅滞、先天性心疾患を始めとした多様な合併症が問題となりますが、血液学的異常として、急性白血病、特に急性巨核芽球性白血病の高率な発症を認めます。この白血病は、21番染色体トリソミーの存在を背景に、GATA1遺伝子変異を獲得後、一過性異常骨髄増殖症を発症、さらに、コヒーシン、CTCF、EZH2などのエピゲノム制御因子に遺伝子変異が付加されることで発症します。しかし、なぜ21番染色体トリソミーが血球前駆細胞でX染色体上のGATA1遺伝子に特異的な変異を誘導するのか、21番染色体上の遺伝子群とGATA1変異、さらに付加されるドライバー変異がどのように協調して白血病を引き起こすか、また、その過程で引き起こされるエピゲノム変化については明らかにされていません。私たちは、これらの分子機序の包括的な理解に向けて研究を展開していきます。

メンバー

 NameE-mail 
准教授(大学院先導機構併任) 大口 裕人 ohguchi* Publication list
技術補佐員 大口 康代 urashima*

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連絡先

  • 〒860-0811 熊本市中央区本荘2-2-1
    熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患エピゲノム制御分野
    TEL/FAX : 096-373-6596