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第8回 生命資源研究・支援センターシンポジウム

『モデルマウスを用いて初めて明らかになったAIMの新規機能とメタボリックシンドロームの新しい治療法開発の可能性』

東京大学 大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 教授
熊本大学 生命資源研究・支援センター 表現型解析分野 客員教授 宮崎 徹

 AIM (Apoptosis Inhibitor of Macrophage)は、マクロファージが酸化LDLを取り込むことによって生ずる核内受容体LXR/RXRの活性化に伴い産生・分泌され、マクロファージ自身のアポトーシスを抑制する分子として1999年に発表した(1)。その後、マウスに高コレステロール食を負荷して発症させた動脈硬化巣において、泡沫化したマクロファージはAIMを発現し、自らのアポトーシスを抑制し病態発症に重要な役割を果たしていることを見出した(2)。一方脂肪組織において、AIMはマクロファージだけではなく脂肪細胞にも直接作用しており、肥満のメカニズムや、肥満に引き続いて起こるインスリン抵抗性の発症に重要な役割を果たしていることが、糖尿病発症用高カロリー食を負荷したマウスを用いた解析で新たに明らかとなった。すなわち、AIMは脂肪細胞に蓄積している脂肪滴を遊離脂肪酸とグリセロールに分解(lipolysis)する結果、肥満にブレーキをかけるが(3)、それが過剰になると、慢性炎症の発症ひいては糖尿病などの生活習慣病の発症の引き金をひくことを見出した(4)。またさらに、脂肪肝やそれに続く肝臓の線維化、肝癌の発症にも極めて重要な役割を果たすことも分かってきている(未発表)。こうした新しい知見は、AIMを欠損させた遺伝子改変マウスに様々な負荷をかけて疾患を誘導することなくしては決して発見できないことである。また、これらの知見を基盤とした種々の疾患に対するこれまでにないアプローチによる治療法の開発においても、疾患モデルマウスを用いた研究が必須である。今回の講演では、このような肥満からインスリン抵抗性獲得に至る過程におけるAIMの重要性と、AIMがより広範な疾患の病態に関与している可能性について述べたい。これらの知見を元に、AIM創薬による、メタボリックシンドロームをはじめとする慢性炎症を基盤とした様々な疾患に対する新規治療法開発の可能性を討議する。

【参考文献】
1) Miyazaki, T. et al. J. Exp. Med. 189:413 (1999);
2) Arai, S. et al. Cell Metab. 1: 201 (2005);
3) Kurokawa, J. et al. Cell Metab. 11: 479 (2010);
4) Kurokawa, J. et al. pNAS 108: 12072 (2011).