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第8回 生命資源研究・支援センターシンポジウム

『遺伝子改変マウスを用いた創薬標的の探索』

東京大学 医科学研究所 システム疾患モデル研究センター 教授
熊本大学 生命資源研究・支援センター 技術開発分野 客員教授 岩倉 洋一郎

 我々はHTLV-IトランスジェニックマウスやIL-1レセプターアンタゴニスト欠損マウスなどを作製し,これらのマウスが関節炎を自然発症する事を見いだした.これらのマウスは病理像が関節リウマチと似ているだけでなく,T細胞依存性の自己免疫が発症に関与している事から,関節リウマチの良い疾患モデルと考えられる.これらのマウスの関節炎局所で,IL-1やIL-6、TNF、IL-17Aなどの炎症性サイトカインの発現が亢進していたことから,これらの遺伝子を欠損したマウスを作製して病態形成における役割を検討した.その結果,HTLV-IマウスはIL-6依存的に,IL-1レセプターアンタゴニスト欠損マウスはTNF依存的に関節炎を発症している事が分かった.また、両方のモデルとも,IL-17A欠損によって発症が抑制される事から,IL-17Aが関節炎の発症で中心的な役割を果たしている事が示唆された.IL-17Aは滑膜細胞に作用して種々の炎症性サイトカインの発現を誘導するほか,自己抗体の産生を促進したり,破骨細胞分化を誘導したりするなどして、関節炎を誘導しているものと考えられた.近年,人でもIL-1やIL-6、TNF、IL-17Aなどの活性を抑える事によって,関節リウマチを治療できる事が報告されている.

 ところで,IL-17Aと同じファミリーに属するIL-17Fは、50%のアミノ酸相同性を持ち,同じレセプターに結合することが分かっているが,生体内に於ける役割はよくわかっていなかった.我々はKOマウスを作製することにより,IL-17Fが炎症応答にはほとんど関与していないが,細菌や真菌に対する感染防御で重要な役割を果たしていることを明らかにしている.今回,ApcMinマウスを用いて腸管ポリプでIL-17Fの発現が亢進していることを見いだし,ポリプ形成に於ける役割を検討した.その結果,IL-17FKOマウスでは強くポリプ形成が阻害されることがわかり、また、抗IL-17F抗体により,ポリプ形成を阻害できることが分かった.これは,IL-17Fが血管形成を誘導することにより,ポリプ形成を促しているためと考えられ,大腸がんの新たな治療のターゲットとして注目される.

 一方,我々は関節炎モデルの炎症局所でC1qTNF6の発現が亢進していることを見いだし,KOマウスを作製した.コラーゲン誘導関節炎(CIA)を誘導したところ,KOで炎症が増悪化することが分かった.また、逆にトランスジェニックマウスでは発症が抑制された.これらの知見は,C1qTNF6が炎症を抑制する活性を持つことを示している.実際,C1qTNF6を投与したところ,関節炎を治療できることが分かった.新規の関節炎治療薬として注目される.この様に,遺伝子改変マウスは新たな治療標的を探索するために,きわめて有用であることが分かった.